1. 都会の喧騒から逃れて、房総半島ローカル線へ
2018年1月28日の日曜日、私は仕事で数日間滞在していた横浜を離れ、千葉の房総半島を目指しました。今回の乗り鉄一人旅のターゲットは、関東圏に残る貴重なローカル線、小湊鉄道といすみ鉄道。特に、いすみ鉄道のレストラン列車で本格フレンチを堪能することが、この旅の最大の目的でした。
早朝、五井駅に到着すると、そこはもう別世界。都会のターミナル駅のすぐ隣にあるとは思えないほど、時間がゆったりと流れています。ホームには、ノスタルジックなカラーリングをまとった小湊鉄道のディーゼルカーが停車していました。

この時点で、日頃の仕事の緊張感から解放され、心躍るのを感じました。
2. 小湊鉄道—単線・非電化の響きと揺れを楽しむ
小湊鉄道は、五井から終点の上総中野までの全線を走破します。私が乗車した車両は、昔ながらの単線非電化を走り抜けるディーゼルカー。車内は横長に座るオレンジ色のベンチシートが特徴的な、レトロな雰囲気です。

定刻通りに列車は動き出し、ディーゼルエンジンが独特の低い唸りを上げ始めました。五井を出発してしばらくすると、あっという間に景色は一変し、車窓には広大な田園風景が広がります。
この路線の醍醐味は、その素朴な線路です。列車はカーブを曲がるたびに、そしてポイントを通過するたびに、「ガッタン、ゴットン」と、まるで生き物のように車体を大きく揺らします。この不規則ながらも規則的な揺れは、ローカル線ならではの心地よいリズム。窓から差し込む冬の光を浴びながら、この揺れに身を任せ、ただただ風景が流れていくのを眺める贅沢な時間は、日頃の喧騒を忘れさせてくれました。
停車する駅舎はどこも古き良き木造で、ホームに立つ素朴な木製の駅名標(上総牛久駅など)が、沿線の歴史を感じさせます。

地元の方が乗り降りする様子を静かに見送り、またディーゼルカーの音を響かせながら走り出す。
話が前後しますが五井駅からは、広大な車両基地でひっそりと休む車両たちも見えました。この時点では全車両が現役、平成時代とは思えない光景です。

この路線を走る全てのものが、この房総の素朴な原風景と調和していることに、深い感動を覚えました。約1時間の乗車でしたが、小湊鉄道は、まさに日本の鉄道の原風景を体現している路線だと感じました。
3. 大多喜駅—乗り換えと懐かしの車両との再会
小湊鉄道の終点である上総中野駅で、いすみ鉄道の黄色い車両へと乗り換えです。ここからまずは、普通列車(いすみ351型)に乗って大多喜駅へと向かいます。

車内の路線図には、ムーミンとその仲間たち

のイラストがあり、小湊鉄道とはまた違った、可愛らしい雰囲気に包まれます。
大多喜駅でレストラン列車の時間まで待機していると、予想外の嬉しい出会いがありました。ホームの脇には、国鉄時代から活躍したキハ52-125といった、貴重なレトロ気動車たちが休んでいました。本当はこのキハ52に乗りたかったけどそこは仕方ない。

これらの車両を間近で見学し、カメラに収めるひとときも、一人旅ならではの自由な楽しみ方です。懐かしい車両たちの姿を見て、この後のレストラン列車の旅への期待が一層高まりました。

4. いすみ鉄道—走る高級レストランで伊勢海老フレンチを堪能
いよいよ、旅のメインイベントであるレストラン列車に乗車です。大多喜駅で、いすみ鉄道の**「いすみ301型」に乗り込みます。この車両は、その名の通り、車内がテーブルと椅子が並ぶ高級レストラン**へと設えられています。

ローカル線の普通列車とは思えない、優雅で洗練された空間です。
乗車区間は大多喜から大原まで。列車が動き出すと同時に、至福の美食の時間がスタートしました。

まずは、ウェルカムドリンクとして提供されたシャンパンで乾杯。昼下がりの走行中の列車内で、キラキラと輝くシャンパンをいただくという非日常的な体験は、まさに大人だけの贅沢。きめ細やかな泡が立ち上るグラスを傾け、窓の外を流れるのどかな里山の風景を眺める。この時の満足感は、何物にも代えがたいものでした。
この日のコース料理は、地元の新鮮な食材をふんだんに使った本格的なフランス料理です。
料理は全て温かい状態で、サービススタッフ

によってスムーズに運ばれてきます。
前菜として提供されたのは、地元産の魚介を使ったマリネやスープ。特に、魚介の旨味が凝縮されたスープは、冷えた体に染み渡るような優しい味わいでした。

そして、ハイライトはメインディッシュです。房総の海で獲れた新鮮な伊勢海老を贅沢に使った一品!

華やかな特製ソースの上に、半身の伊勢海老が堂々と乗せられており、その美しさに思わず息を飲みます。身が引き締まってプリプリとした伊勢海老の食感と、噛むほどに溢れる甘みは、まさに絶品。この極上のフレンチを、のんびりとしたローカル線の車窓とともに味わうという体験は、食鉄・乗り鉄の両方を満たす最高の瞬間でした。

窓の外は、里山から徐々に海に近い風景へと変化していきます。料理が運ばれてくる合間には、ゆっくりと流れる景色を眺めながら、自分だけの時間を堪能しました。また、沿線では地域の方が手を振ってくれる温かい光景もあり、地域に愛されている鉄道であることを実感しました。

ちなみに上の写真は国吉駅で見かけたキハ30。
5. 一人旅で極める乗り鉄の歓び

大多喜から大原までの約1時間半、ローカル線とは思えないほどの優雅なフレンチフルコースを堪能し、列車は大原駅に到着しました。
小湊鉄道で体感した素朴なローカル線の揺れと音、そしていすみ鉄道で味わった優雅な美食列車。この対照的な二つの鉄道を乗り比べることができたのは、乗り鉄として非常に充実した経験となりました。
周りの人との会話を気にせず、思う存分シャッターを切り、揺れる車窓と美食に集中する。今回の旅は、仕事の疲れを癒やすだけでなく、一人旅だからこそ極められる乗り鉄の歓びを存分に教えてくれました。またいつか、この房総半島へ、心と舌を満たす旅に出かけたいと思います。

